ある雨の夜、駅から自宅までの暗い道を急いでいると、どこからか鳥の鳴き声にも似た「キュルルルルル…」と高い鳴き声がする。耳を澄ますまと、やはり雨音に混じって一匹だけ鳴いている。
僕は興奮した。それは、シュレーゲルアオガエルの鳴き声だったからだ。どうやらどこかの民家の庭の中から聞こえて来るようだ。
急いで帰ると、これまた急いで夕飯を食べ、子供たちを風呂に入れて寝かしつけ、カッパを着て長くつを履いてヘッドランプを装着し、小さな虫かごを手に、勇躍出かけた。もちろん、シュレーゲルアオガエルを捕まえるためである。
一匹鳴いているのであれば、他にもいるはずだ。シュレーゲルはこの時期、雨の日にしか捕まえることができない。樹上性のカエルで、産卵のために地上に降りてくる一瞬のタイミングしかない。
近くを流れる川沿いに5分程度歩くと、透き通るようなあの鳴き声が聞こえる。さっきとは別の場所だ。鳴き声の方へ迫っていくと田んぼ脇を流れる水路のほど近く、ヘッドランプに照らされた濡れた地面の上に、そのカエルは一匹で鳴いていた。
鳴き声を頼りに、川の周りを歩いてみるのも中々どうして、楽しいもんです。夜がオススメ。それも雨の夜。
ヒトの動物としての本能が少しだけ蘇る気がするんです。雨は気配を消すから、神経を集中させないと何かに襲われるかもしれないぞ、と。その瞬間、自然の中に溶け込むような感覚を覚えるのです。
雨夜の散歩に出かけてみませんか?
伊藤 匠